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【プリンストン便り9】プリンストンの冬

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秋と冬の境目ってどこにあるのか、はっきり言うのはなかなか難しいものですけど、私には「これをもって冬の始まりとする」というイベントができました。

それは、サンクスギビング休暇の3つのイベント、つまり、11月最後の木曜日の「サンクスギビングデイ」、翌日金曜日の大セール「ブラックフライデイ」、同じく金曜日の夜にあるプリンストンの「クリスマスツリー点灯式」です。木曜・金曜をお祭り騒ぎで過ごすと、その後の土曜・日曜を、家でのんびり過ごしながら、「あぁ、冬が来たのだわ」としみじみ実感できるのです。

 

今年のサンクスギビングの日は、夫のボスのお宅に招かれまして、ボスの家族や親戚の皆さんと一緒に大きなターキーを頂きました。でも実は、それとは別の日にも、短期留学の日本人学生さんたちとのパーティ、仲のよい日本人家族たちとのパーティ、ご近所さんのパーティ(に途中から乱入)と、この時期に合計4回もパーティしてしまいました。

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写真は我が家で食べた12ポンド(=大体5.4kg)のターキーです!こんなに大きくて重いのに、これがお店の中で一番小さいものだと分かってびっくり。さらに、学部生達がこれをぺろりと食べてしまって、もう一回、びっくり。

 

金曜日のブラックフライデイには、夜中からショッピングモールで開店待ちの行列ができるそうですが、そんなガッツのない我々夫婦は午後からフラフラと近くのお店を廻りました。それでも半額やそれ以上のお値打ち価格で、大満足のお買い物ができます。街中がお祭りモードで、こちらもついついタガが外れてしまいます。危険ですね。

 

熱気ムンムンの買い物戦争のあとは、極寒のクリスマスツリー点灯式。ここで身も心も冷えきって、セールのせいで高ぶった気持ちも少し落ち着きます。

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     ツリー点灯式当日の様子

自分のことは棚に上げて、「この寒い中、そんなに見たいのか!」と言いたくなる程の人の混みよう。市営の駐車場もと路上駐車もいっぱいです。それでも、友達に簡単に出会えるという、プリンストンのちょうどよい規模感。

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      平日は静かです

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美味しい(そして高い)レストラン「メディテラ」の前にもツリー

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パルマースクエアの虎もクリスマス用におめかしをしています

去年も今年も、サンクスギビング休暇の後がとっても早く過ぎる気がします。大学の授業や英会話教室などが次々に終わって、それぞれグループごとにパーティがあったりして。

おやおや、パーティだらけだな。あらためてここ最近の冬のパーティを思い起こしてみると、去年よりも交友関係が広く深くなったなと実感です。たまにはパーティが続くのも、いいものですね。(夏は夏で、暑いからビールでも飲みましょう、なんて言って結局集まるんでしょうけど。)

 

それでは皆さま、よいお年をお過ごしください。

Best wishes for a wonderful holiday and a Happy New Year!

 

南崎 梓@プリンストン

【プリンストン便り8】文化に触れ合う秋だもの(その2:音楽編)

あぁ、すっかり冬になってしまいましたが、秋の話をもうひとつだけ。今度は、プリンストンで聴いた音楽のお話です。

 

大学のチャペルでパイプオルガンのコンサートがあると聴いたので、11月の寒い夜(零度まで下がりました)に夫と一緒に行ってみました。

チャペル内は天井が高く、入り口から祭壇までまっすぐ伸びる長い通路を挟んで、座席がほぼ左右対称に並んでいます。普段はこの通路はロープで塞がれていて、遠くから祭壇を眺めることしかできませんが、この日はロープがありません!前から2番目と3番目の柱の間が一番よく響きますよと言われたので、通路をぐんぐん前に進み、勢い余って2番目の柱よりも前の席に座ってしまいました。

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演奏が始まると、そんな特等席(?)から、演奏中の手元がよく見えました。といっても、演奏者の姿は高い木の壁に囲まれて見えません。演奏席を上から見た映像が、スクリーンに写されるんです。

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両手と両足を4つの鍵盤とペダルの上で忙しく動かしながら、横の白くて丸いレバーも押したり引いたり。そんな中、一瞬の隙をついて楽譜まで交換するのです!め、めまぐるしいっ!! 彼の動きに目は釘付けでした。

しかし、それ以上に驚いたのは、オルガンの音によってチャペルの空気がいかに変わってしまうか、ということ。

一曲目のヘンデルは、キャサリン妃がウェディングドレスを引きずって後ろから歩いてくるんじゃないかと思うほどの「ロイヤル」感。ところが、メンデルスゾーンの荘厳な曲になると、建物の隅々までキリスト教の威厳がみなぎるようでした。ルイ・ヴィエルヌ作曲の「Troisième Symphonie」は、演奏者曰く「ハロウィンにぴったり」。(誰だか知らないけれど)この曲の登場人物が、とにかくものすごく怒ってるんです。教会の外は土砂降りと稲妻の大嵐なんじゃないかしら、と思うほど。しばらくすると、ちょっと怒りがおさまって妖怪っぽい曲調に。今度は、教会の周りにコウモリや魔女が集まってきているんじゃないかしら…。

パイプオルガンをじっくり聴くのは初めてでしたが、こんなに頭の中が忙しくなるとは思いませんでした。まるで、教会自体が変身してしまうみたいに、その場の空気がすっかり変わります。ガウディが教会を一つの楽器と捉えていたと聞いたことがありますが、確かにそうかもしれません。コンサートホールで遠い前方のステージを眺めているのとは全く違う没入感の体験でした。

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実は、ちょうどこの日、プリンストンの慈善家のWilliam H. Scheide氏が100歳で亡くなったそうです。そこで、その死を悼み、プログラムにはない曲がひとつ演奏されました。Scheide氏が大ファンだったというバッハの曲です。今度は、ヨーロッパの田舎にある古くて小さな教会にいるような気分になりました。窓から入る春の柔らかな日差し(もちろん妄想ですけど)で心が暖まり、安らかな癒しの空間という教会の一面も体験できました。パイプオルガンと教会からは、こんな優しい音も出るんですね。

 

南崎 梓@プリンストン

【プリンストン便り7】文化に触れ合う秋だもの(その1:壷編)

ううう、寒い!11月に入りすっかり寒くなりました。プリンストン大学で堪能した、芸術の秋をお伝えします!

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10月の終わりから、プリンストン大学のアートミュージアムで「Chigusa and the Art of Tea in Japan」という企画展が始まりました。Chigusa(千種と書きます)とは、16世紀の日本で使われていた茶壺のことです。ブルーの紐で飾られた壷の写真がとても綺麗で、さっそく見に行ってみました。

最初の感想としては、茶色くて大きいね…という、なんとも素朴なものでありました。知識がないと、なんだかもったいないですね。展示では紐がかかっておらず残念でした。

 

突然ですが、実はわたくし、9月からプリンストンでお茶のお稽古を始めておりまして。日本ではお茶はおろか着物の着付けもしたことがなく、全くの初体験ばかりでとても楽しいです。

11月最初のお稽古は、プリンストンに千種が来ていることもあって「口切り」の茶事をしました。茶家は毎年5月頃になると茶壺をお茶屋さんに持って行きます。お茶屋さんは摘み取った初夏の茶葉をその茶壺に入れ、しっかりと封をして保存します。その茶壺をお茶屋さんから引き取って来て、茶室で口を切るのが11月なんです。口切りの茶事では、茶壺を床に飾ってお客に見ていただいた後、中の茶葉を石臼で挽き、今年初めてのお茶を皆で楽しみます。そのようなわけで、茶人にとっての一年の始まりは11月なんですね。だからこの時期に、茶壺である千種が展示されたのかー!と大納得しました。

お稽古で驚いたのは茶壺の小ささ。実はこちらが普通なのだそうです。どうも、千種の大きさが特別だったようです。どれくらい大きいかと言うと、チワワだったら4、5匹詰められるんじゃないでしょうか。この説明、分かりづらいですか?

お稽古では、客役の私たちが茶壺を拝見したあと、主人役の先輩生徒さんが、客の前で茶壺に紐をかけ始めました。そうか、茶壺に紐をかけるのはお客さんの前でするものだったんですね。

 

さらに、プリンストン大学で千種に関連するシンポジウムが二日にわたって行われ、私は初日のトークのみ参加しました。

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会場の場所は奇しくも、今期の授業を受けているホール。でも、席を埋めている人のうち、半分以上は日本人で、しかも男性も女性も着物を着ているという、普段は絶対に見られない状況となっていました。ニュージャージー、ニューヨーク、ペンシルバニア辺りから集まった、お茶の先生達に違いない…。私はデニムパンツにダウンジャケットでしたが。

 

この日は、永青文庫の竹内順一先生が16世紀の茶の湯の文化についてお話されました。当時の人々の価値観を探る方法は3つ:お茶会の様子を日記のように記録した茶会記、優れた審美眼を持つ目利きが記した名物記、そして名物記に書かれたもののうち現存する名物そのものを見ることです。三大名物記として紹介されたものの中に、「山上宗二記」がありました。山上宗二とは、私のお茶の全知識と言っても過言ではない、漫画「へうげもの」の中に出てきた人物です!

秀吉趣味を良しとせず、彼自身の目で選び抜いた名物を記録した山上宗二。漫画の中では、秀吉の価値観と異なるこの名物記を書いたことで責められました。その際に秀吉の服装について意見を問われ、それに率直に答えため、耳と鼻をそがれて処刑されました。このシーンはとても恐ろしくて強烈に記憶に残っています(やりとり自体は史実ではないのかもしれませんが)。石田三成が山上宗二記を全部回収してしまいませんように!と思ったものです)。

今回プリンストン大学で見ることのできた千種は、この山上宗二記に載っている名物の一つなのだそうです。三大名物記のうち、最初に書かれたものには、明るい色の綺麗な茶壺がありましたが、後に書かれた山上宗二ともう一つの名物記には、より渋いものが載せられています。山上宗二も千種を実際に見て、これは良いと思ったのですね。そう言われると、千種のあのドロンと茶色い肌が、深くていい味を出しているような気がしてくるので不思議です。因みにわたくし、薬だと思って砂糖をなめたら体調が良くなるタイプです。

 

シンポジウムではプリンストン大学の研究者だと思われる人たちが、とても流暢な日本語で、何やら難しい質問をしていました。明らかに私よりも日本を知っている…!と思いました。プリンストンで日本文化を学ぶなんて、なんだか不思議な気持ちです。習い事や学問を通して、今まで知らなかった日本に巡り会いました。

 

名物記に書かれたもののうち、現存しているものはわずかとのこと。千種よりもっと貴重なものが、日本にはまだまだ保管されているのですよね。同時に、当時にはなかった新しい美意識にも、あらためて興味が沸きました。日本に一時帰国した時に見たいものが、今、少しずつ増えてきています。

 

南崎梓@プリンストン